2006.0926


月明かり、障子に影が映ったのが見えた
名乗らなくてもそれが誰なのか解ったので軽く声をかける。
「あぁ久しぶりじゃないか。なにやってんだ?」
「ちょっとな…久々に会いたくなった」
「お前、そんな殊勝な人間じゃないだろう」
「…そうだったかな。まぁ 後少し頼みごとをな…」
「また何か問題をもってくる。ハワイはもうごめんだぞ、あれは若い奴らが若いうちに行くもんだ」
「…そういえばそんな事もあったかな…」
「なんだよ、あれもお前が言い出した事じゃないか まぁいい、こっちきて 座れ」
ー障子を開いて、赤木しげるが顔をだした。



もう何年も昔の話になる
まだあの頃の赤木は後ろ盾もなく、代うちでも無く…他より金を持て余し気味のちんぴらとしてふらふらしてた。其の時はどこかの代打ちで組をつぶしかけたからで…(どこぞのじいさん先生をやっただったか…
組に恨まれるか、囲われるか…まぁどちらにせよ、赤木にとっては不名誉だったんだろう状況で、
逃げ回ってるうちにこんな岩手くんだりまで来る嵌めになったらしい。

俺の実家が …見ての通り、何代か続く寺なんだが
…色々聞くだろう。 檀家で亡くなった人が居たら挨拶にくるだとか。
夜中にお堂にフッと火がともってなぁ、見に行くと 人が座っている、話をして朝には帰すと今度はそれと入れ替わりにそこの家族が、『昨晩、うちの曽祖父が…』なんて。冗談みたいだがよくある話なんだよ。
だからといって帰れといえるわけも無いしな、お堂に錠をかけても入ってこれるんだからしゃあねぇわ。
大体そういう時は誰かしらが気付くから、気付いた人が、まぁちょいと…ってね。
ただその日は少し様子が違っててな。
何の気なしにお堂に入ったんだ。
何か用事があった気がしたんだが、入った途端に忘れる様な、しょうもない用事だった。
ははぁ、これはまた誰か来たなぁと思ったら 障子に人型の影が出て、その影がしゃべりやがる
「こんばんわ」
って、妙に落ち着いた声で。 気配なんか微塵も感じなかったから 驚いた。
こんな時間に尋ねてくるなんて、まず人だとは思わんだろう。
これが噂の…ってさ。そうえいば足があるのかって思わず確認したなぁ。
月明かりで障子に影が映ってんだがそれをすーっと下っていくと下段が透きガラスになっててな。
そこにも立派に足がある。すわ、幽霊に足がある!って、いや、あん時は驚いた。
驚きすぎだって?うるせぇよ。足があったら人だろうったって…あんな時間にだぜ?
足があって幽霊じゃないなら、どのみちもののけの類だよなぁ…
まぁ、人よりか幾分そっちに近い奴だったけども…

…そん時あいつの身の上話も少しな、あんまり込み入った事はしゃべらなかったけども。
逃げ回ってるうちに手銭も尽きてこんなところに忍び込んだんだと。
こんな貧乏寺、盗るもんなんざ何も無ぇぞって言ったら 
こんな商売してて、そんな事ないでしょ、貧乏には見えないよってクククと笑いやがる、本当良い勘してるよ。でも其の時は別に何かを盗る気とか無くて、ただ宿を借りようと思ったんだ。でも無断じゃ申し訳無いって挨拶にだと
…変なところで丁寧なんだよな。
そん時の事も良く覚えてるよ…そのまま障子越しに二言三言会話して
障子開いて出てきたのは俺よりいくつか下位…十幾つの学生服の少年だった。




−−七年前、あいつがやってきた時がまるで昔と一緒なんだ。月明かりに照らされてすっとさ。
緊張した様子もなく足音もさせず入ってきて、何も変わらない、いつも道理さ。
ぁぁでも俺ばっかりしゃべってたなぁ。 適当に相槌打って…
まだ色々覚えてたんだろう。 たまに聞き返してくるくらいで…
…珍しく牌には触らなかったなぁ…。麻雀の話題も…あんまりしないで…
何で其の時気付かなかったのかなぁ…何で気付いてあげれなかったんだろうなぁ…
一通り馬鹿騒ぎして夜も明けそうな頃に、そういえば、何だよ用事って?って言ったら。
本当たいしたことでも無いようにな…本当普通にだよ
「金光・・・・・・

出された封筒と、話を、金光は信じられず何度も聞き返したという。
またその後の話が大変だった。説得しては、決めた事だからと返された。
最期には金光が折れて、赤木しげるの葬儀…あの変則通夜へと成ったのだ。
…結局俺はあれくらいしかしてやれなかったけども…良かったんだろうか
あの時ならまだ…気付いてやれれば…と金光はうわごとの様に何度も 言った。



ひろゆきはその様を、まれに相の手をいれつつ聞いていたがやがて片付けを理由に部屋を辞した。
綿廊下の途中、庭に降り、持ってきたCASTERに火をつける。
煙を深く吸い込み、目を閉じて先ほどの金光の話を思い出す。
そこに居たのは若い赤木しげるであり、若い金光であり、卓を挟まない普通の二人だった。
赤木しげるの、若い頃の話ー…そして七年前、そう、東西戦から9年も経ち再会した、赤木しげるの最期に至る話。
それをすくなからず金光の独白によって聞いた形になった。

金光は目を輝かせながら 昔の赤木の話をした。
恐らく自分も以前、赤木しげるの話を口にするときあんな目をしていたに違いない。
宝物か、珍しい物をみつけたような目ー…思い出にするには早い、しかし、確かにあったことを確かめる様に。
呟くように。
最初にみたあのころから、まるで変わらなかった。
いつまで経っても俺はお堂に入るたび、そこに立つ度、赤木の影が映るのを待ってしまう。
元々人じゃなかったのかもなぁ。其の方が…いくらか…

今、金光の目が追っているのは今横にいる、自分では無い。
間違いなく 何年となく見てきた 赤木しげるというもののかげである。








プロット以前の問題ですね。
赤木しげるについて語る金光をひろゆきが見ている形。にしたかったんですが文章は絵で書く順番と違うんだと思ってちょっと慌てたり、してました。
何回忌かにやっと和尚があの時の状況をしゃべれる様になってたらいいなとか。
結構皆酒が入り、会もまばらになって、後片付けに和尚と、ここで要領の悪いひろが手伝わされつつ、
ふと独白を聞いてしまったらなーとか。(いや、集まったら麻雀しちゃうだろ)

通夜編のひろの前に出てくる赤木の影が障子にうつるのが酷くこわかったんですが。
妖怪じみてるなーと思ったら画図百鬼夜行にあったので抜粋
影女:もののけある家には月影に女のかげ障子などにうつると云う。荘子にももうりょうと問答せし事あり。景は人のかげ也。もうりょうは景(かげ)のそばにある微陰(うすきかげ)也。
との事。障子越し、影との会話、をさせたかったんです。(本当開けるまで人かどうかわからんと思うよ。

お粗末様でした。